大きな森の中を一人の男が歩いていました。彼は吟遊詩人で旅の途中でした。詩人はフゥッと大きなため息をひとつすると、「こんな森に、私の詩を聞いてくれるものなどいないだろう…、けれど、それは町でも同じこと…」と言って、どんどん森の奥へと入っていきました。


 ある晴れた春の日、詩人が森の奥へ奥へと歩いていると、大きな木の前にぽっかりとひなたが広がっていました。彼はそこでひと休みすることにしました。

 いつのまにか寝てしまったのでしょう。彼は美しい音色で目を覚ましました。森の小鳥たちが大きな木のまわりに集まって、春が来たよろこびをみんなで歌っています。あまりに美しいメロディーに、詩人もおもわず歌いだし、日が暮れるまで小鳥たちと一緒に歌いつづけました。

 時折、大きな木が歌にあわせて体を揺らし、森もよろこんで少しふるえ、まだ芽吹いたばかりの若葉がキラキラと輝きました。詩人はこの森がすっかり気に入り、この大きな森の近くで暮らすことにしました。


 ある夏の夜、詩人は暑くて眠れず、夜の森へ散歩に出かけました。

 あの大きな木に近づくにつれ、また美しい音楽が聞こえてきました。あのひなたは今夜は月にぽっかり照らされて、舞台のように深い森の中に浮かんで見えました。近づいてよく見ると、小さな虫たちが集まって、夏の恋の歌を奏でています。あまりに甘いハーモニーに誘われて、詩人も持っていたリュートを弾きはじめ、東の空が白むまで虫たちと一緒に演奏しつづけました。

 時折、大きな木が演奏にあわせて体を揺らし、森もよろこんでザワザワ揺れて、心地よい風が吹き抜けていきました。そのたびに、虫たちの羽は月の光にキラキラと輝きました。星が空にとけだすと、虫たちはいつのまにかいなくなり、彼もリュートを弾きながら家に帰っていきました。


 ある澄んだ秋の日、森の奥からなにやら楽しい音楽がきこえてくるので、詩人は森へ出かけました。

 大きな木のところへ行ってみると、あのひなたに森の動物たちが集まって、みんなで秋の実りを感謝するお祭りをしています。とても愉快にみんなで踊ったり、演奏したりしているので、詩人もおもわずリュートを弾きながら踊りだしました。

 時折、大きな木が音楽にあわせて体を揺らし、森もよろこんでザワザワ揺れると、たくさんの木の実や果実がコロコロ落ちて、笑っているように見えました。お祭りは、お日さまが西に沈み、お月さまが舞台を照らし、そしてまた東の空が白むまでつづきました。その日の朝はすっかり冷え込んで、朝日の射しこんだひなたでは霜がキラキラと輝きました。くまも、りすも、きつねも、詩人も、みんなあくびをしながら家に帰っていきました。


 ある寒い冬の日、詩人はとうとう食べるものがなくなり、おなかペコペコで森へ出かけました。森の中はなにもかも雪で真っ白で、静まり返っていました。

 あの大きな木のところまで行ってみましたが、だれもいませんでした。ただ、あのひなたは冬のやわらかな日射しをうけて、ぽっかりと金色に輝いています。詩人はそこでひなたぼっこすることにしました。

 彼が大きな木の根っこに腰かけたとたん、コロンと頭の上になにか落ちてきました。拾ってみると、それは透きとおった石ころのようでした。上を見上げると、大きな木の枝の上で、二匹のりすがせっせとなにかを集めてはほおばっています。頭の上に落ちてきたのは、そのひとつでした。詩人は

その透きとおった石ころをなめてみました。するとそれは、甘くて濃密なキャラメルのような味がしました。大きな木が四季折々の美しい音楽を吸収し、甘く豊かな樹液を作り出し、それが冬の寒さで固まって結晶になったものでした。それをなめていると詩人の体はポカポカと暖まりとても元気になりました。彼はポケットいっぱいに樹液の結晶をつめこむと、キャラメルの歌を口ずさみながら家に帰っていきました。

 大きな木が歌にあわせて体を揺らすと、結晶がコロコロ落ちて、雪の上でキラキラと輝きました。

 もうすぐ春がやってきます。


 キャラメルコロンコロコロリン